『ナイトクローラー』
・他人事ではない欲求の満たし方
みんなは〝覗き見〟をしたことがあるだろうか?
ぼくはある。そして、みんなも当然あるはずだ。「ない」だなんて言わせないぞ。なぜなら、映画を観ることは他人の生活を〝覗き見〟する行為に他ならないからだ。ぼくたちはスクリーンの中で起こる喜劇、乃至悲劇に一八〇〇円も払って〝覗き見〟しているぐらいなんだから、相当刺激に飢えているに違いない。
セレブのゴシップを追いかけ回すパパラッチも、ある意味でみんなの〝覗き見〟欲求を満たしている職業だ。その中でも事件・事故報道専門のパパラッチは〝ナイトクローラー〟と呼ばれている。本作の主人公ルイス・ブルーム(ジェイク・ギレンホール)ことルーは交通事故に群がるカメラマンを目撃したことから、ナイトクローラーを仕事にする。ここでルーはスポンジのようにノウハウを吸収して、名前の通りブルーム(Bloom=開花する)した。
彼にはナイトクローラーが天職だったのだ。
イイ画を撮るためなら事故現場の死体を勝手に移動させることも辞さないルーは、スクープ映像の撮影に次々成功して、更なる高みを目指すために一線を超える。銃撃事件の犯人を目撃したが敢て警察に「顔は見てない」と嘘をつき、泳がせ、身元を割り出し、自ら通報して逮捕の瞬間を撮影しようと画策。ついでに、調子に乗ってルーを脅してきた助手のリック(リズ・アーメッド)をハメて亡き者にしてしまうのだ。オマケに、リックの死も撮影してメシのタネに。加えて、言葉巧みにTV局のディレクターを操った結果、当然といった顔で成功を収めることとなる。こんなことは、現実を現実と捉えられないルーにしか出来ない所業だ。
そんな所業が可能なのは、ネットの情報やTVで垂れ流される報道にしか現実を感じられないからである。いつも見ていたであろう報道番組のセットを見学しても「テレビではリアルだ」と言い、事件現場と中継でつながっているモニター画面に向かって直接話しかけてしまうなんて、その証拠に違いないのだ。が、思い返してみるとみんなも似たような経験あるでしょ? 観光名所に行って「絵葉書と同じだ」と感じたり、TV番組についツッコミいれちゃったり。
ルーはぼくたちの中にも、確実にいる。
それは誰にも否定できない。自らの欲求を満たすために映画の登場人物を〝覗き見〟しているぼくたちと、自らの願望を満たすためにカメラで他人の生死を〝覗き見〟しているルーに、どんな違いがあるのだろうか。