『ムカデ人間3』

・毒をもって毒を笑い飛ばす非社会映画。

 (映画では)デッカいことはイイことだ!

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 シリーズ物の正しい取り組み方として、前作をしのぐためにドンドン規模をデカくしたり人数を増やす姿勢は誠に正解だ。『ムカデ人間』は三人、『ムカデ人間2』は十二人、そしてムカデ人間3』で「今度は4XLなアメリカン・スタイルだ」と明言したとおり出血大サービスで五〇〇人も繋げてみせたトム・シックスは、シリーズ物をよく理解している素晴らしい監督なのである。

しかし、ただデカイだけではない。 

刑務所の名前はジョージ・ブッシュ刑務所で、ディーター・ラーザー演じるビル・ボス所長は自分こそが正しくて清廉であると信じて疑わない差別主義者のサディストだし、BGMがモロにアメリカ国家のパロディだったりと、〝デッカいことはイイことだ主義〟で〝世界の警察はオレたちだ思想〟のアメリカン・スタイルをアメリカン・スタイルでもって徹底的におちょくっているのだ。

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そう、これはコメディだ。但しかなりの猛毒なので、アメリカ人でも飲み込めるように台詞でオブラートに包んでくれている。狂った所長が(とは言え、終始狂ってるが)「世界は地獄そのものだ!」とのたうち、暴れる受刑者に苛立ち「オレを尊敬しろ!」と銃を乱射、ヤケクソになり「クズで地球を埋め尽くしてやる!」とわめき散らす。その様には笑うしかないが、チョビヒゲの会計士ドワイト(ローレンス・R・ハーヴェイ)がビル・ボスに「あなたを真似てヒゲまで生やしたのに」と言い放ったのには笑ってイイものか困ってしまった。なんせ、ビル・ボスにヒゲは生えていないのだ。コレは、アメリカを体現するビル・ボスをヒトラーと重ねてるってことです。

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コメディ臭が漂ってくるもうひとつの理由は、話のほとんどがセット感溢れる所長室で進行することだ。そのワンシュチュエーションでの狂気じみたドタバタは、シットコムを思い起こさずにはいられない。撮影はレディーガガのPVや『ハンコック』でも使用された刑務所で行われたらしいが、そこにビルの秘書デイジーを演じるポルノ界のスーパースター、ブリー・オルソンが佇むとまるで洋ピン、或はジェームズ・ガンの『PG PORN』をも想起させるんだから堪らない。

ムカデ人間2』は『ムカデ人間』を観ているシーンから、『ムカデ人間3』は『ムカデ人間2』を観ているシーンから始まり、こうして『ムカデ人間』トリロジーは自分の尻尾を自分で飲み込むウロボロスの様相をもって完結する。ウロボロスは全てが完ペキに繋がったことの象徴だ。これもまたご丁寧に劇中で、「ムカデの最初と最後を繋げれば食費も減らせる」とビルが言ってくれるのだった。

 ちなみに、次回作は『The Onania Club』という題名らしい。ストーリーは秘密だが、またまた非社会的で政治的に正しくなさそうなニオイがする。だが、倫理など芸術の前ではクソ食らえなのだ。